コバヤシ ハルキ
  小林 春樹   東洋研究所 東洋研究所   教授
■ 標題
  『漢書』の谷永像について
■ 概要
  『漢書』巻85に本伝が立てられているとともに、同書「五行志」では、董仲舒などとともに前漢を代表する儒学者の一人としての評価を与えられているにもかかわらず従来あまり注目されてこなかった谷永について検討を加えた結果、以下の諸事実が判明した。1.本伝において谷永は、災異思想を基本とする儒学的知識を援用して、外戚・王氏に阿諛追従した人物として批判的に描かれている。2.一方「五行志」では、同じく災異思想を基本とする儒学者として谷永を描きつつも、成帝期に発生した種々の災異解釈を中心として、前漢滅亡が不可避の天命であることを読み解く知識人としての役割を与えられいる。3.本伝と「五行志」における谷永像の相違は以下のように理解することによって整合化し得る。すなわち本伝における谷永像は実際の彼の姿の実録であるのに対して、「五行伝」に登場する谷永は、成帝期が、前漢の滅亡が決定付けられた画期であることを証明してみせる優れた災異学者として『漢書』の作者によって登場させられいわば架空の存在である。4.ちなみに『漢書』は、前漢の滅亡と後漢の再受命が不可避の天命であったこと、および後漢が永遠不滅の神聖王朝であることの証明を以てその重要な述作目的とした歴史的叙述である可能性が高いが、果して然らば、そこに二つの谷永像が存在するという事実もそのような視点からの説明が可能となる。すなわち『漢書』は本伝において谷永の実像を呈示するとともに、「五行志」においてその述作目的を果たすために、無謬の災異学者としての「谷永」なる登場人物を「創造」したものと理解されるのである。
  単著   『東洋研究』第167号(レフェリー制)   大東文化大学東洋研究所刊行      2008/01


Copyright(C) 2011 Daito Bunka University, All rights reserved.