コバヤシ ハルキ
  小林 春樹   東洋研究所 東洋研究所   教授
■ 標題
  「『律暦思想』論批判-『漢書』「律暦志」の再検討を中心とした考察-」
■ 概要
  「律暦思想」論とは、漢代思想史を構築するための鍵概念として堀池信夫氏によって提出された以下のような仮説である。-「神の見えざる手」としての「数理」と、その数理の具現化と考えられた「音律」とを世界の構成原理と見なすとともに、数理と音律とに準拠して「暦法」を作成することによって、時空を理解するだけでなくそれらを支配することを目指した漢代独自の壮大なコスモロジーであった。-しかれども『漢書』「律暦志」をあらためて精査すると、そこに記されているアナロジーは、第一に、陽数の「九」とその倍数系列(三・十二・八十一など)、およびそれに準じる奇数(五・七など)が自然の理法を体現した聖なる数であること、第二に、とくに陽数(奇数)の代表である三の自乗数である九がもっとも神聖な数であること、したがって長さ九寸の律管が生成する音律を基本数として基本音高を形成するべきこと、の二点のみであることが確認される。すなわち、当該史料には「律暦思想」の存在を期待させる、「律を以て暦を起こす」という一文が明記されているものの、「律暦思想」論を構成し得るような具体的・論理的・総合的なアナロジーはその片鱗さえも記されていないのである。以上要するに、「律暦思想」論は,「律を以て暦を起こす」という一文を観念的に拡大解釈してしまった堀池氏が「創作」したコスモロジーならぬ「ナラトロジー」なのであり、漢代思想史を構築するための歴史学的な鍵概念の導出は、『漢書』律暦志の記述の実証的再検討をふまえてあらためて行われなければならない未解決の問題なのである。
  単著   「東洋研究」第150号(レフェリー制)(164頁/109頁~138頁)   大東文化大学東洋研究所刊行      2003/12


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